九州・沖縄発 一流のオトナを諦めないあなたに贈るフリーマガジン変革をあきらめないオトナたちへ BOND

九州・沖縄発 一流のオトナを諦めないあなたに贈るフリーマガジン変革をあきらめないオトナたちへ BOND

なぜ今、日本酒が新たなトレンドとして注目が集まってきているのか。 CULTURE


日本酒

今、にわかに日本酒が盛り上がりをみせている。お酒をたしなむ僕は元々日本酒が大好きだし、僕の父親も昔から日常的に飲んでいたのを思い出す。一方、九州という土地柄と、1970年代、80年代、2000年代前半と3度にわたり訪れたブームの影響もあり、周りには焼酎を好んで飲む人も少なくない。実際、日本酒は特別な日に楽しむという声を、九州でよく耳にするのも事実。そう、お酒は嗜好品だ。楽しみ方はもちろん自由だし、シーンによって飲み分けるのもありだと思う。そんな中、なぜ今、数多あるお酒の選択肢のなかで、日本酒が多くの人たちに選ばれ、新たなトレンドとして注目が集まってきているのか。


イベントがより間口を広げる

 酒蔵が集まる産地で行われる酒蔵開きなど、日本酒にまつわるイベントは全国に多数存在しているが、ここ2、3年、都市圏で開催する日本酒イベントの盛況ぶりには目を見張るものがある。福岡も多分に漏れずで、今年の春で3回目を迎えた「九州酒蔵びらき」をはじめ、中田英寿さん主催の「CRAFT SAKE WEEK in 博多」が初開催されるなど、その盛り上がりは全国的にみても顕著。今回、「九州酒蔵びらき」にも出店し、企画・運営を裏方から支える「博多 住吉酒販」専務取締役・庄島健泰さんにインタビューする機会をいただいたので、同氏が考える日本酒ブーム再燃の理由や、九州の日本酒が目指すべき未来を聞いてみた。
 庄島健泰さんは1978年に創業した「博多 住吉酒販」の2代目。店のテーマに「酒に笑う人生」を掲げ、そのお酒の優れている点や、より魅力を引き出すためのフードペアリングなどを提案し続けている。「こちらは吟醸純米酒、それは山田錦を何%精米して作った、など専門性の高い酒造りのこだわりは、コアなファンにしか伝わらない。僕は、“こちらは冷酒で爽やかにすっきり飲めるモダンタイプ、そちらは落ち着いた味わいのクラシックタイプですよ”というように、日本酒を普段飲まれないライトなユーザーの方々にも、味をイメージしやすい提案を心がけています」と庄島さん。確かに、これくらい分かりやすい説明なら、日本酒の知識がない若い女性などでもピンとくるだろう。実際、「九州酒蔵びらき」の会場には、一昨年、昨年よりも若い女性グループの姿を多く見かけられた。女性が総じてトレンドに敏感で、イベント好きなのもあるだろうが、日本酒ってそんなに難しくないし、敷居も高くないという発見、それがSNSなどで発信されることによって、集客が伸びたことは想像に難くない。そうやって日本酒の間口が広がっていくこともまた、今の日本酒ブームの大きなポイントとなっているのだろう。僕自身、東京から来福した友人と一緒にイベント会場に足を運んだが、その友人からは「入場料はいらないの?福岡っていつもこんなに面白いことやってるの?」と質問攻めにあった。もちろん毎日がこんなにぎやかなお祭りムードではないが、大体いつも面白いことをやっているのが福岡なんだと、住んでいると当たり前すぎて気づかない発見もあった。なにより入場料をとらないスタイルもいい。極端な話、300円握りしめて酒を一杯だけ飲むなんて楽しみ方も可能なのだから。


日本酒のアプローチ方法を変える

日本酒は知識がなくても楽しめるカジュアルなお酒へと確実に変わってきている。もちろん、詳しい知識を持ち合わせていれば、より楽しめる分野であるのは間違いないが。庄島さんは「日本酒とワインにはアプローチの仕方から大きな違いがある。ワインは入口としてまず赤と白に分かれているので、自分の好みが表明しやすい。日本酒の場合、玄関をくぐったら、いきなり専門的な用語のオンパレード。それだと敷居が高くなってしまうし、楽しくないでしょ。もう少し気軽に入り込めるアプローチを作ってあげることが大切だと考えます。例えば、簡単なのはそれぞれの日本酒に合う食事の提案。さらに器によって味わいが変わることも伝えられたらいい。原料や製造工程を詳しく知らなくても、楽しめるお酒だということを、一般のユーザーの方々が気づき始めたんだと思います」と話す。実際、日本酒の品ぞろえをウリにし、料理との相性で銘柄を提案してくれるお店も増えてきた。「博多 住吉酒販」では5、6年前から飲食店向けに、同様の提案を行っているというから、僕たちエンドユーザーへとそのプレゼンがなされている印象だ。


福岡の人たちの楽しみ方を世界へ

国内では若い世代にもかなり浸透してきた日本酒だが、地方都市福岡だからこそ、という思いはあるのだろうか?「ビートルズが英国の首都・ロンドンではなく、地方都市・リバプールから出てきて、全世界を席巻したようなイメージですね。東京などの大都市とは違った、お酒との交わりというか。事実、福岡の人たちは、普段の生活の中で、個人個人の食へのこだわりが、日常に溶け込んでいると思うのです。だからこそ、日本酒も銘柄そのものだけではなく、福岡らしい、福岡だからこそ生まれた楽しみ方、スタイルなどを発信すれば、福岡の日本酒事情は、もっと盛り上がる。その福岡人のお酒の楽しみ方が、国内だけでなく、海外の人々にも伝搬する大きなパワーにもなると思うのです。」


「伝統」と「革新」への挑戦を

古くから神事の際にはお米と一緒にお酒が供えられていたように、神様と日本酒は深い関わりがある。それだけ歴史も長く、全国各地の酒蔵では脈々と技術が伝承され、現在、20〜30代の若手たちが次世代の担い手として活躍している話はよく耳にする。今回、取材した白糸酒造の田中克典さんも然りだ。九州はもちろん全国各地の酒蔵からお酒を仕入れる庄島さんが、自身と同年代の若手醸造家、将来の蔵元たちにどんな思いや期待を抱いているか聞いてみた。「一般ユーザーの方々の“指名酒”となれるお酒を生み出す必要があると思うんです。どういうコンセプトで作った日本酒で、どんなストーリーを経て、お客さまに選ばれるか。今後はそこまで考えた上でお酒造りに取り組む必要があるのではないでしょうか。例えば、うちで一番売れている白糸酒造の『田中六五』の場合、それが明確にできているんです。あえて“田中ブランド”を一つに絞っているのも、お酒の価値を高める一助になっている」。なるほど。今の人々は味はもとより「理念」や「物語」で選ぶ。目標としても明確だ。

 庄島さんの話は、日本酒はもちろん日本伝統文化のこれからを考える上で非常に興味深かった。今までも日本酒を好んで飲んできたヘビーユーザーに加え、新しい価値観の人々を取り込むための方法や発信方法の改革。それは、伝統の中にありながらも、常に攻めの姿勢を忘れない「アリタポーセリンラボ」の松本哲さん、「白糸酒造」の田中克典さん、「八女伝統本玉露推進協議会」の椎窓孝雄さんのスタイルとも通ずる。それらは、長い年月の中で研ぎ澄まされて来た「本質」を、断固として守りながらも、その中で「革新」を恐れないで挑戦している人たちの姿だと思う。こうした挑戦がある限り、日本酒を始め、日本の伝統文化に対する関心は、益々高まっていくと感じた。そして、それに関わる人々が見据える先に“世界”があるということも、共通の意識として感じることができた。こんなにもチャレンジングな伝統文化が溢れている福岡に居るけれど、なかなか忙しいよなぁ〜と思った時、「無駄と思えるものに時間を使うことが最もリッチで、ラグジュアリーな生活だと思う。」という、先の中田英寿さんの言葉が、頭に浮かんだ。

BOND 編集部

記事一覧

BOND GIRL