[BOND GIRL] 散歩と歴史と恋。 BOND GIRL
BOND GIRL by 田村 優奈
そういえば、あまり彼女とハデな場所でデートした覚えがないなと、ふと思った。彼女はどこかのテーマパークやショッピングなどに行くよりも、ただ、街をブラブラと歩くのが好きなようだ。
その日歩いた街は彼女の育った街らしく、キョロキョロしながら僕の前を歩いている。モノレールが走るその街は、「馬借」という地名なんだと彼女が話す。その昔、馬を利用して荷物を運搬していたからとかなんとか……いろいろと説明してくれながら歩いている。彼女は兎に角、こういった土地の歴史が好きらしい。いつも歩く街のことをペラペラと教えてくれる。ある時、僕が彼女に負けじとスマートフォンで知識を得ようとした時、彼女が言った。
「そうやって、スグに便利なモノを使うのは別に悪いことじゃないけどさ、そういうのって、なんかツマんないと思わない? なんとなく街を歩いて、その時感じるもの……それが素敵だと思わない?」
そう言われた時、正直ちょっとムっとした。自分だってネットで知った知識なんじゃないのかよ! どうやら僕のその思いは言葉には出ていなくても、顔には出ていたらしい。
「そう、私だってネットを使って調べたの。だけと言いたいことはそこじゃなくて……今は、今この瞬間は不便でもいいなって。その不便なことが二人だけの時間になって、思い出になるのかなって。だから、今は、簡単に答えを検索しないでほしいなって。」
それからも彼女は歩くたびに、その先々で説明する。
「あっちに見えるのがリバーウォークで、その隣が小倉城ね。古いものと新しいものが混在してて、素敵ね。」
やら、
「ここが旦過市場ってところで~す。北九州を代表する市場で~す。北九州の台所的な? どぉ? なんだか懐かしくない? ジブリっぽくない? ぽくない?」
等々。あれやこれや。ワイワイ言いながら楽しそうに僕の前を歩いていく。なんだか不思議の国に迷い込んだ気分になってきた。前を歩くのは実はウサギだったりして……。
そうして、一日中街を歩き回って彼女は随分と満足したようだった。馬借に流れる川べりの喫茶店でのんびりその日一日の出来事に浸っていた。僕は彼女になんとなく質問した。
「ねぇ? なんでこんなに街歩きが好きなの? もっとこうさぁ、あるじゃん、デートってさ。」
のんびりした顔で彼女は言った。
「そりゃぁ、たくさんあると思うよデートって。でもそのほとんどって行ったら終わりじゃない? ただ楽しいだけっていうか……。こうやって街を歩くとね、古い歴史あるモノに気づいたり、そこに出来る新しいモノだったり、いろんなモノを目にするでしょ? なんだかその街の歴史がそのまま今度は二人だけの歴史になるんじゃないかな……なんつって。」
あぁ。
この街のように、出会った頃の彼女、今の彼女、これからの彼女。その全てを感じていよう。街歩きは素敵だ。