九州・沖縄発 一流のオトナを諦めないあなたに贈るフリーマガジン変革をあきらめないオトナたちへ BOND

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谷尻誠 INTERVIEW

 

名前ではなく、機能・役割に着目するコトで、
本当にその場所に必要なものが見えてくる。

 

広島と東京を拠点に活動する建築家・谷尻誠氏。同氏が共同代表を務める建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス) Co.,Ltd.は、JCDデザインアワード、グッドデザイン賞、INAXデザインコンテストなど数々の受賞歴を有する、今最も勢いのある建築設計事務所の一つだ。その作風は大胆かつ、独創的。日本各地の住宅をはじめ、倉庫をリノベーションした複合施設「ONOMICHI U2」、泊まれる本屋として注目される「BOOK AND BED TOKYO」、歪んだような外観が特徴的なオーストラリアにある複合施設「New Acton Nishi」など、同事務所が手がけた建物や空間は、とにかくユニークかつ、斬新。その活動は多岐にわたり、住宅や商業空間のほか、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなども手がけている。そんな事務所を精力的に率いる同氏は、現在44歳。まだまだ建築業界では若手ゆえに、斬新な発想が生まれるのか。それとも、なにか同氏ならではの独自の思考があるからなのか。話しを伺った場所は2017年4月にオープンした『社食堂』。SUPPOSE DESIGN OFFICE東京事務所に併設されたダイニングカフェで、オフィスとカフェスペースの間に仕切りがない不思議な空間だ。ご飯を食べに来た人も、私たちのように仕事で来社した人間も、設計事務所のスタッフさんも、いい意味でゆるくつながっている感じ。オフィスなのに、仕事に一切関係のない一般の人たちも訪れる、こんな場所を作ってしまうことにまず驚かされる。そんなところから、谷尻誠氏の思考を探ってみた。

 

空間をどう定義するか
常識にとらわれない考え方

 

—『社食堂』、本当に斬新ですね。普通、オフィスってセキュリティなどの問題もあり、すごく閉塞的な場所なはずなのに。なぜ、こういうオフィスを作ろうと思ったのでしょうか?
谷尻誠(以降、谷尻) 整然と机が並んでいて、奇妙に静かで、決まった場所で毎日仕事をするのがオフィスの正解じゃないと思ったんです。例えばスターバックスに行って、ノートPCを開いて仕事をしている人も多いじゃないですか。そういった場所の方が快適で、集中できる人もいるっていう視点でみると、スターバックスみたいなオフィスがあってもいいという発想です。PCを開いて仕事ができるという環境が仕事を定義しているわけで、空間が仕事を定義しているわけではないという考えが根本にあります。例えば、山の上に展望台を作るっていう仕事があったとしますよね。山の上にある時点で、もう展望できているわけで、展望台をわざわざ作る必要はないんです。じゃあ、どんな展望台がそこにあるべきか、っていうことの方が大切。山の上に行きたい人の心理を導き出すということですね。

 

—場所、空間をどう定義するかということですか!面白い考え方ですね。ただ一般的に、例えばオフィスとはこうあるべきみたいな概念にとらわれがちですよね。それを壊すために意識されていることがあるんですか?
谷尻 なにかを作ってください、っていうオファーがあった時点で、そのものにはもう名前がありますよね。それをもう一度解釈し直すことから始めます。基本的に“もの”っていうのは機能が先なのか、名前が先なのかでいうと、間違いなく機能が先だと思うんです。(目の前にあるコップを持ちながら)例えばこのコップ。コップって名前で呼ばれる前は、水を汲めるっていう機能を持った道具で、それは木の実の殻だったかもしれないし、大きな葉っぱだったかもしれない。ただ時代が流れていくなかで、この水を汲んで飲める道具は、コップと呼ぶことにしようってなったと思う。名前は絶対に機能のあと付けなんです。だから、まずは行為・機能に着目するのがいいと思っていて。なんとなく、みんながそう言っているから、「これは常識的に考えて、こうだよね」なのか、そうじゃなくて、そのものに名前がつく瞬間に立ち会うかのように、一度そのものの機能を解釈し直すことが大切。このコップだって、花を生けたら花瓶になるし、極端な話し、小さい魚を泳がせたら水槽になるでしょ。まず名前を取り除くっていう作業が、習慣化しているのかもしれません。

 

—そういう意味でいうと、この『社食堂』はさまざまな機能を同じ空間に持たせていて、かつ、その垣根をなくしてしまったというわけですね。
谷尻 現在は垣根がなくなった時代。携帯電話だって、もはや電話を携帯できるっていう機能だけじゃない。ここ『社食堂』も、ランチタイムはカフェレストランとして賑わうし、午後は会議室になったりする。絵や写真を飾ればギャラリーにもなる。カフェなのか、会議室なのか、オフィスなのか、ギャラリーなのかわからない空間ですね。ただ、いろいろな機能を持った空間の、過去のあり方を現代に置き換えたときに、どういうことができるのかっていうのは、いつも考えています。

 

振り回されることのないよう
世間が言うことをアテにしない

 

—どんなに良いクリエイティブでも、どんな面白い広告でも、話題性の寿命が短い気がしています。3日、長くて1週間ぐらい話題に上がるぐらいでしょうか。一方で谷尻さんが身を置かれている建築という分野は、数十年は必ず残る。そこに対して責任感などを感じられているのでしょうか?
谷尻 僕が生きている間ぐらいはずっと残っているものばかりなので、それは常に意識していますね。そして、広告やクリエイティブの寿命が短いというのならば、故に僕は建物そのものを広告にしたらいいと思うんです。広告建築っていうんでしょうか。年間、メディアなどを活用して莫大な宣伝費を使うのであれば、その予算ですごい建物を作って、それを広告に使うのもありなんじゃないかと。広告に使い終わったあとも、その建築物を使って、いろいろな人に還元される仕組みを創造すると、必ず広告が世に残り続ける原理が生まれますよね。広告を打つたびに必ず一つ、社会に刻まれていくような広告の概念が作れたら、すごく新しいと思っています。

 

—なるほど!広告建築はおもしろい発想ですね。今までの話しをお聞きして思うんですが、谷尻さんは今までの世の中の当たり前をどこか壊そうとしている?
谷尻 壊すとかではないんですが、みんなが言っていることをあまりアテにしないようにはしていますね(笑)。世の中が言ってることって、すぐ過ぎ去って、またいろいろなことを言い出すじゃないですか。それをアテにしていたら、振り回されてしまう。自分で判断するっていうのが一番いい。

 

今やっていることが
自分の未来を作る

 

—人それぞれに“らしさ”ってあると思いますが、谷尻さんらしさってどういう部分だと自己分析しますか?
谷尻 僕は自己紹介のときに必ず、“色白腹黒”ですって言うんですよ。僕はやっぱり誰よりも腹黒い(笑)。ただ僕の場合はパブリックな腹黒さと思っています。普通、腹黒さっていうと、利己的で自分のことしか考えていないという捉え方をされますが、僕はみんなのための腹黒さ。パブリックな企みというんでしょうか。みんなが喜んでもらえることを企んでいるんです。企画力があると評価されるのは、その腹黒さあってこそかなと思っています。

—ただ、なかには谷尻さん発信の企画を提案しても、「とりあえず、こんなものを作ってくれたらいいから」ってスタンスの圧力がかかることもあると思いますが、そんなときは折れたりしないものですか?
谷尻 折れないですね。そういうやり方の仕事を僕らがすると、またそういう性質の仕事依頼がきますよね。今やっている仕事が自分たちの未来を作るので、スタンスを明確にして、表明することってすごく大事だと考えています。ただ一方で、そういうシーンになったときって経済とのバランスを取りがちですが、僕はバイトと建築の仕事を掛け持ちしていた独立初期の段階で、食えないってことはないぞ、と確信したので(笑)、自分を殺してまでやる仕事はしないと決めています。自分を殺すってことは、相手に嘘をついているのと同じだから、誠実じゃないな、と。ただ、ずっとそんな強気の姿勢で仕事やってきたわけじゃないですよ(笑)。ここ数年でとくに、自分たちはプロとして言うべきことはしっかり伝えて、仕事をした方が絶対いいな、と思えるようになりましたね。

—確かに、今はソーシャルな時代ですし、そんな確固たるスタンスが受け入れられやすくなっていますよね。
谷尻 そうですね。ちゃんと自分の考え方を持っている人の方が求められる時代になってきたと僕も感じています。個人に対して価値観の焦点があたり始めているな、と。

 

数字に一喜一憂せずに
本質をしっかり見据える

 

—福岡の話題にも触れたいと思いますが、谷尻さんは福岡には来られますか?また今、福岡は開発ラッシュで、街がどんどん変わっていこうとしています。もし谷尻さんが開発事業に携わるとしたら、これはやっちゃいけないなって思うことはありますか?
谷尻 福岡にはよく行きますよ。福岡はご飯も美味しいし、交通インフラが整っているのが素晴らしいですよね。都市において交通インフラが整っているのはとても重要なことです。ただ、僕が開発に関してタブーだと思うのは、もはやその場所じゃないと感じられない街の匂いとか、雰囲気が失われること。どこに行っても同じ店が並んでいるのは、もったいないなと感じます。旅ってその場所に行かないと得られないものを得たいがために行くわけであって。

—逆に、開発事業を請け負ったとしたら、まずなにから着手したいですか?
谷尻 森を作りたいですね。木々がいっぱいの公園を作って、その一帯に小さな建物をたくさん建てて。ランドマーク的な建物がドーンってあるより、そんな街の方が楽しそうじゃないですか?世間は数字の論理にのまれていると僕は思っていて。100万人来館っていうと、すごいって評価されがちだけど、100万人の大半が2秒で帰っているかもしれないし(笑)。それよりも、少人数でもそこに長く滞在したっていう方が価値だと思う。

谷尻誠氏と話せば話すほど、自分の現状に置き換えられるのはなぜだろう。職種はまったく違うのに、「なるほど」「確かに」「自分だったら…」の連続だった。最後の福岡の話題も然りだが、私自身も、開発が進む福岡も、どの部分の価値に重きを置くかという点を深く考えないといけないのかもしれない。
インタビュー前に考察していた、谷尻氏の発想力の理由は、誰に対してもフランクに接することができる若さも理由の一つかもしれないが、やはり谷尻氏ならではの、柔軟かつ、本質を見据えた考え方が大きいようだ。

[ たにじり・まこと ]

1974年広島県生まれ。穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て、2000年にSuppose design officeを設立。2014年に法人化、SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltdを設立し、共同代表の吉田愛と共に広島と東京の2拠点で活動中。これまで手がけた作品は住宅だけでも100件を超える。代表作は高台に建てられた住宅「毘沙門の家」、福岡市の貯水池に面した傾斜地の住宅「桧原の家」、自転車ごと宿泊可能なサイクリストフレンドリーなホテルを核とした「ONOMICHI U2」、オーストラリアキャンベラの複合施設「New Acton Nishi」など多数。近年では、建築設計事務所の枠を超えて「社食堂」や「絶景不動産」、「21世紀工務店」を開業するなど、その活動は多岐にわたっている。また、自社で運営を行う「THE PLACE(仮)」を、広島市中区堺町に2019年秋に開業予定。ホテルを中心に、ギャラリーやレストラン、ショップ、オフィスなどで構成する、オープン前から注目を集める複合施設だ。

BOND 編集部

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